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札幌地方裁判所 昭和43年(ワ)1479号 判決

主文

一  被告は原告に対し、金一二万三、四〇〇円およびうち金九万四、〇〇〇円に対する昭和四二年一二月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

一  被告は原告に対し、金二一万六、四四五円およびうち金一七万八、四四五円に対する昭和四二年一二月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

第二請求の趣旨に対する答弁

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三請求の原因

一  事故の発生

昭和四二年一二月二〇日午後一時四〇分ころ訴外坂下則幸は普通貨物自動車(札一ふ八・九六号)を運転して札幌市西二四丁目通りを南進中、同市北五条西二四丁目交差点入口附近路上において、同所で信号待ちのため一時停車中の原告運転の普通乗用自動車(札五や九五三八号)に追突して原告所有の同車(以下被害車両という。)を破損させた。

二  責任原因

(一)  被告は、その事業のため右坂下則幸を雇傭しており、本件事故は同坂下が被告の事業執行中に起したものである。

同坂下には次のとおり過失があるから被告は民法七一五条により原告の受けた後記損害を賠償すべき責任がある。

(二)  坂下は時速約四〇粁で道路中央寄りを走行し、前記交差点にさしかかり左折するため自車の進路を道路左側に変えようとしたが、進路前方には同交差点で信号待ちのため並列して停止している数台の自動車を認め、道路左側の部分は停止中の自動車のかげになり見とおしがきかない状況であつた。このような場合、自動車運転車としては減速除行して追突等の事故発生を未然に防止すべき注意義務があるが、坂下はこれを怠り、停止中の自動車の左側に他の先入車がないものと軽信し、従前の速度のまま道路左側に自車の進路を変更して進入した過失によつて、信号待ちのため一時停止中の被害車両を直前で発見し急制動をかけたが間に合わずその後部に追突した。

三  損害

本件事故により原告は次の(一)または(二)の損害を受けた。

(一)(1)  被害車両は四二年型カローラ四ドアデラツクスの新車で昭和四二年九月五日五九万二、〇〇〇円で購入し、購入後本件事故まで約四カ月を経過し、走行距離は僅かに三、九七二粁に過ぎないという何らの瑕疵もない新車同様の車両であり、これを買替える必要は全くなかつた。しかし、本件事故により修復できないフレームの歪みが生じ、運転操作に危険を感ずるに至り、被害車両の販売先であり、かつ、自動車修理業者である訴外トヨタパブリカ道都株式会社に鑑定を求めたところ、右故障は一時的に補修し得ても完全なる補修は不可能との回答をえたので止むなく被害車両を三五万一、〇〇〇円で下取りしてもらい被害車両と同種、同型、同額の新車を購入した。そのため原告は新車購入代金五九万二、〇〇〇円(ただし、これから後記の償却費相当分の六万二、五五五円を差引く。)と右下取り価額の差額一七万八、四四五円の追加支払を余儀なくされ、同額の損害を受けた。

(3)  弁護士費用(着手金ならびに成功報酬とも)三万八、〇〇〇円

(二)(1)  被害車両の修理費用 二万一、三〇〇円

(2)  事故による被害車両の減価損 一五万七、一四五円

被害車両は右のとおり昭和四二年九月五日五九万二、〇〇〇円で購入したものであり購入後事故当日までの償却費として六万二、五五五円を控除した五二万九、四四五円が事故当時の被害車両の評価額である。ところが、本件事故により被害車両は外形的に補修されてもフレームの歪みが完全に修理できないという状態となり、被害車両の客観的価格は極めて低額に評価され、修理費二万一、三〇〇円を含め三五万一、〇〇〇円と査定された。したがつて前記評価額五二万九、四四五円から右査定額三五万一、〇〇〇円および修理費二万一、三〇〇円を控除した一五万七、一四五円が本件事故による被害車両の減価損害である。

(3)  弁護士費用(着手金ならびに成功報酬とも)三万八、〇〇〇円

四  よつて、原告は被告に対し、右損害金合計二一万六、四四五円および右金員から弁護士費用三万八、〇〇〇円を控除した金一七万八、四四五円に対する本件事故発生の日である昭和四二年一二月二〇日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四請求原因に対する被告の答弁

一  第一、二項は認める。

二  第三項のうち(二)(1)修理費用の点は認め、その余の部分は否認する。原告の主張する被害車両の事故当時の評価額は誤りである。右評価額の算出にあたつては単純に購入価格より事故当日までの減価償却をしているが、一般に自動車は一年を経過すると四割、二年を経過すると六割位価額が低落するもので税法上における減価償却とは著しい差がある。さらに、被告車両の修理費用が二万一、三〇〇円程度の軽い損傷である以上十分に修理して使用が可能であり、新車と買替える必要はなかつた。

第五証拠〔略〕

理由

一  (事故の発生および被告の責任原因)

これらについては当事者間に争いがない。

二  (損害)

(1)  先ず、本件事故により被害車両について修復不能なフレームの歪みが生じたかどうかを検討する。

〔証拠略〕によると、本件事故後原告は被害車両を走行中ハンドルが片方にとられるのを発見し、被害車両の販売先である訴外トヨタパブリカ道都株式会社円山営業所に持ちこみ修理が可能かどうか診断を求めたところ販売を主として担当してきた同営業所長鈴木政一は被害車両に乗つて試走し、ハンドルが右側にとられることを確認し、その原因は被害車両のサスペンシヨンの取付部分やフレームに狂いがあるものと判断したこと、そこで同所長鈴木は原告にその原因を説明し、修理して一時的には直つても、またハンドルのとられる癖が出ることがありうる旨注意したところ原告は今後の運転の危険を感じ、被害車両を下取りに出し、新車と買替えることにしたこと、同所長鈴木は被害車両の下取り価格の査定の際当時査定員として九カ月の経験者の霜鳥光昭に対しハンドルが右にとられる点を指摘したが、右霜鳥はその点を失念してか、査定について所長鈴木の右指摘による欠陥個所を減点の対象として調査しなかつたため同人が作成した乗用車個別査定書のハンドル、ステアリング、フレーム等の個所には事故減点としての記載がなく、したがつて、被害車両の修理見積についても右の点が採り上げられていなかつたこと、同所長鈴木は右査定書、修理見積書に自己が判断した右欠陥個所に関係する記載がないことに気づいたが、当時本件被害車両と同種、同型のカローラ中古車に対する需要が大きく、また被害車両の下取り査定額が多ければ原告の新車買替えを容易にしうるであろうと営業政策の面から考慮し、あえて、その点を訂正するよう右訴外会社に対し注意を与えなかつたことが認められる。

ところで、右所長鈴木の欠陥個所に関する判断が正しかつたかどうかをみるに、〔証拠略〕によると、本件被害車両は右訴外会社において修理のうえ昭和四三年三月ころ同訴外会社と同系列の訴外西山自動車工業株式会社で約一五年間修理専門を担当してきた笠井富哉の仲介により訴外石橋某に売却されるに至つたが、そのころ被害車両を時速約九〇粁で試乗した右笠井は走行中ハンドルにふるえを感じたので調査したところ左前輪に狂いがあるのを発見し、ホイルバランスを調整した結果、時速約六〇粁ではほとんどハンドルのふるえを感じないまでに改善されたこと、その後昭和四四年八月の本件被害車両の車検の時期に至るまで持主の右石橋某から売買の仲介の労をとつた右笠井に対し被害車両の異状を訴えることもなく、右車検整備の際はエンジンの調整だけで車検を通過していること、また、同年九月二六日ころ日本損害保険料率算定会車両損害登録鑑定人の資格を有する門田弘、あるいは自動車修理に六年の経験を有する入江英也が本件被害車両を点検したところ被害車両にはサスペンシヨン、フレームとも特別の異状がなく、ホイルベースが左右五、六粍の誤差がある程度との判断を下していること等の事実を総合して考えてみると、本件事故後被害車両の走行の際ハンドルがとられたのはホイルバランスが狂つていたとも考えられるし、また、フレームに何らかの狂いが生じたとしても、ホイルベースの左右の誤差が五、六粍の全くの軽度のものであり、被害車両の普通の操縦方法、速度に従つて運転走行するに何らの支障のない程度のものであつたものと認められ、被害車両に修復不能の欠陥があるとした前記所長鈴木の判断は正確性を欠いていたものといわざるをえない。右認定に反する〔証拠略〕は信用しない。

(2)  次に、原告の受けた損害額について検討する。

右認定のとおり本件被害車両は修復が可能であつたのであるから、これを不能であるとして、新車を購入し、その代金と事故車の下取り価格との差額とを損害として請求することは許されない。(ただし、本件の請求においては、新車価格から原告主張するところの償却費相当部分を減額して価格を算出しているので、結局修理費と評価損との合算額の範囲内において請求をするという形をとつているが、原告は本件事故による車両損害として結局、修理費用および事故による評価額の減少部分を請求しうるに過ぎないというべきである。

(イ)  原告主張の修理費用二万一、三〇〇円については、被告の争わないところである。

(ロ)  次に、本件事故による被害車両の減価損についてみる。原告は被害車両の購入時から事故当日までの減価償却費六万二、五五五円を控除した額をもつて被害車両の事故直前の評価額と主張するが、〔証拠略〕によると、本件事故当時自動車の販売業界においては、新車購入後数カ月経過しただけであり、走行距離数が僅かな新車同様な車であつても新車の販売価格の二割以上に減じた価額に評価されるのが通例であることが認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。また、〔証拠略〕によると、本件被害車両の事故当時の基準価格(最高の販売価格)は四五万円前後(両査定の平均値は四五万一、〇〇〇円)であることが認められ、これによると新車価格の二割三分弱程度の減少として評価されているが、〔証拠略〕とをあわせ考えるならば、右減価の割合は概ね妥当であり、本件事故当時被害車両の評価額は右四五万一、〇〇〇円を上回わることがないものと推認されるので、これをもつて被害車両の評価額とするのが相当である。

しかして、〔証拠略〕によると、被害車両の事故現状のままの査定額は三五、六万円(〔証拠略〕との両査定の平均値は三五万七、〇〇〇円)であることが認められ、これを下回ることがないものと推認されるので本件事故後の被害車両の被害現状のままの評価額は右三五万七、〇〇〇円であるとするのが相当である。

そうすると、本件事故による被害車両の評価額低下による損害は、右事故前の評価額四五万一、〇〇〇円と被害現状による評価額三五万七、〇〇〇円の差額九万四、〇〇〇円から前記修理費用二万一、三〇〇円を控除した額七万二、七〇〇円であると解するのが相当である。

右認定に反し、評価落ちは三万四、〇〇〇円であるとする証人霜島光昭の証言、あるいは、四万二、〇〇〇円であるとする証人大西正男の証言または修理費用の二、三パーセントだけ評価減があるとする〔証拠略〕は何れも信用しない。

(ハ)  弁護士費用。〔証拠略〕によると、原告は本件訴訟追行を弁護士村部芳太郎に委任し同弁護士に対し着手手数料として二万円を支払い、成功報酬として勝訴部分の一割の割合による金員を支払うことを約束したことが認められ、被告に対し弁護士費用として賠償を求めうべき額は二万九、四〇〇円をもつて相当と認められる。

三  よつて、被告は原告に対し、右損害額合計一二万三、四〇〇円および弁護士費用二万九、四〇〇円を控除した九万四、〇〇〇円に対する本件不法行為の日である昭和四二年一二月二〇日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、原告の本訴請求は右の限度で認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 梅原成昭)

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